大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)669号 判決 1973年3月29日

上告人

株式会社 東食

右代表者

吉田清康

右訴訟代理人

大高三千助

露木滋

山内堅史

被上告人

旧商号 株式会社 角丸商店

株式会社 カクマル

右代表者

幸田末三

右訴訟代理人

石川泰三

辛島睦

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大高三千助、同露木滋、同山内堅史の上告理由について。

原審の認定するところによれば、

被上告人が昭和三九年一〇月二四日訴外進興木材株式会社(以下進興という。)に対して被上告人所有の本件木材を代金二三八万五六七七円で売り渡し、進興が同月二七日上告人に対してこれを代金二四七万四〇三五円で売り渡し、本件木材の所有権は上告人に移転するに至つたこと、被上告人は、右売渡当時、被上告人の占用水面において筏屋である訴外株式会社平田組(以下平田組という。)を占有補助者として手数料を支払つて本件木材につき筏組みやその監守をさせてこれを占有していたものであること、そこで被上告人が進興に対して本件木材を売り渡した際、被上告人は平田組に宛てて本件木材を進興に引き渡されたいとの記載のある荷渡指図書(以下第一の荷渡指図書という。)を発行して進興に交付し、また進興が上告人に対して本件木材を売り渡した際にも、進興は平田組に宛てて本件木材を上告人に引き渡されたいとの記荷渡指図載のある書(以下第二の荷渡指図書という。)を発行し、これを第一の荷渡指図書を持参して呈示しこれを預けておいたこと、その頃被上告人と進興間の前記売買契約は合意解約されたこと、被上告人は平田組に対しその解約を告げたうえ平田組が上告人から預かつていた二通の荷渡指図書を持ち帰つたこと、木場における木材取引に関する古くからの慣行は、つぎのとおりであること、すなわち、売主がその占用水面において筏屋を占有補助者として占有中の木材を他に売り渡した場合、これを買主側の占用水面に回漕するには、筏屋にこれを依頼してするのが通例であり、その依頼は通常は電話や口頭でなされるが、本件と同様な記載内容の荷渡指図書を発行して買主に交付し、買主がこれを筏屋に呈示してその回漕を求める例もかなりあり、売買契約を締結する際にも、買主は木材の現物を確認することなく荷渡指図書の交付を受けて売買代金を支払い、買主がさらにその木材を第三者に転売するにあたつても右の荷渡指図書を交付してする事例が少なくないけれども、しかし筏屋は、買主から荷渡指図書が呈示されても、直ちに木材を引き渡すのではなく、一応自己の得意先である当初の売主に対して真実回漕してよいかどうかを問い合わせ、その確認を得てはじめて回漕に着手するのが一般的な扱いであり、筏屋が木材を回漕する前に、万一取引当事者間に紛争が生じ売主から筏屋に対して回漕しないようにとの申入れがあると、筏屋はこれに従つて回漕を拒むのが常であり、木材取引業者間においても荷渡指図書の交付なり呈示なりによつて直ちに木材の引渡が完成するとの慣習は確立されていないこと、本件においても、上告人より平田組に対して荷渡指図書が呈示されたけれども、現実の引渡に着手する前に、被上告人から同人と進興との間の前記売買契約の解約を告げられたので、平田組としては得意先である被上告人の承諾を受けないで回漕するつもりはなかつたため、大して気にとめることなく前記荷渡指図書を被上告人に渡したものであること、

以上の事実が認められる。そして、右の原審の事実認定は、原判決の挙示する証拠関係に照らして、首肯することができる。

右の事実関係、ことに木場の木材取引業者間に授受されている荷渡指図書の取扱いについて原審が確定した慣習に基づいて考えると、このような荷渡指図書は、木材取引の履行の簡便と確実を期するために用いられているものと解されるが、その発行は木材の売主が筏屋に対してその木材を買主側の水面まで回漕することを依頼する一つの手段としてなされるのにすぎず、しかもその依頼は筏屋による現実の回漕が行なわれるまでは、売主においていつでも電話や口頭で取消、撤回ができるものとして用いられているというのであるから、貨物引換証、倉庫証券、船荷証券とは異なり、このような荷渡指図書にはいわゆる物権的効力はないものと解するのが相当であり、したがつて、その交付または筏屋に対する呈示によつて直ちに木材の占有移転があつたと解することはできないし、またその交付または呈示に筏屋に対し買主に対する占有移転を指図する効力があると解することもできない。それゆえ、原審が、被上告人から進興への本件木材の引渡が占有改定によつて行なわれ、また進興から上告人への引渡が指図による占有移転によつて行なわれたとする上告人の主張は理由がないものとして排斥したうえ、被上告人は前記合意解約によつて本件木材の所有権が自己に復帰したことを上告人に対して主張することができるとの理由で上告人の本訴請求を棄却した判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法は認められない。なお、本件は、木場の木材取引業者間において前記認定の慣行のもとで発行された荷渡指図書の効力に関するものであるから、所論引用の判例(最高裁昭和三二年(オ)第四四八号同三五年三月二二日第三小法廷判決・民集一四巻四号五〇一頁)とはその事案を異にし、右判例は本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原審の認定した慣習と異なる慣習の存在することを前提として、原審の判断の違法をいうに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

上告理由<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例